純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

ターセルス・ミルーリア・ダ・パーゴ……『王様戦隊キングオージャー』

『王様戦隊キングオージャー』、完走してしまったよ……去年のドンブラザーズから戦隊見始めた者としては超王道のエモさとアツさの塊みたいな作劇に並走していくような50話だった。日本の特撮ドラマで本当にMCUのエンドゲームみたいな終盤の決戦を作り上げたこ…

世界を滅ぼす確率に目を瞑る。『オッペンハイマー』

やっと観に行くことができた。観る前はかなり緊張していて、原爆を扱った映画としてもノーランのファンとしても不安だったのだけれど、観てしまったのちはむしろ興奮は少なく、どこかオッペンハイマーの虚無と絶望が伝わってきたような凪いだ気持ちになった。…

今この世界に必要な二作。『RHEINGOLD ラインゴールド』『美と殺戮のすべて』

今週末は立て続けにすごい映画を2本も観てしまった。自分が最近考えていて、勉強していたこととどんどん繋がっていくし、どれも現代日本の問題と切り離せない。一方で、エンターテイメント作品としての完成度も凄まじい『RHEINGOLD ラインゴールド』は現時点…

ダンジョンに食べられる。九井諒子『ダンジョン飯』

『ダンジョン飯』、とうとう読み終わってしまった。『鋼の錬金術師』や『宝石の国』に匹敵する名作といえば伝わるだろうか。そしてこの作品を読む前の自分はそんなことは全く思っていなかった。タイトルの軽さに惑わされていて、「ダンジョン」で「飯」を食…

憧れのアピチャッポン監督のVR作品とトークを聞いてきました。

日本科学未来館でアピチャッポン・ウィーラセタクンのVR作品『太陽との対話』を体験してきた。 まず最初に見せられる断片的な映像群が紛れもなくアピチャッポンの撮ったバキバキにカッコいいショットだらけで感動した。年末年始にクィア・シネマの講座を受け…

難民問題SFゲームとして。『Citizen Sleeper』

『シチズン・スリーパー』、クリアした。『サイバーパンク2077』みたいな硬派な改造人間SFを『ディスコ・エリジウム』ライクの膨大なテキストで読めるという至福の15時間(106サイクル)。難民船団が到着してそれを受け入れるかを問うDLCが骨太すぎて、そこの…

縮こまった肉体に隠された欲望。『Saltburn』

今年観た中で最もエキサイティングで最も面白い……お手本のようなパリー・コーガンの使い方。2時間を通して熱が迸っていくようだった。ロザムンド・パイク繋がりで『ゴーン・ガール』くらい面白いと言えば伝わるだろうか。 バリー・コーガンはもちろん演技や…

観るものの視線も改造する映画『哀れなるものたち』

ヨルゴス・ランティモス監督作品は好きかどうかは別としてどんどんやってくれ!という気持ちになる。 女性の身体についての細かい言及(男達からまなざされる身体でもあるが......しかし)が多く、観ていて『バービー』を強く思い出した(ダンスバトルのシー…

映画はどこからやってくるのか?『瞳をとじて』

映画を観ていて、奇跡というものはこのように起きるのかと感じたのは生まれて初めてだった。生涯でこんな映画体験をすることができるとは。前半こそ、このテンポで169分いくのか……と思って観ていたが鮮烈という他ない「海」が飛び込んできて(あのゴールポス…

記憶を再生する。『ミツバチのささやき』

ビクトル・エリセ監督が31年ぶりに新作を撮ったというので、その前に見返しておこうと思って観た……のだが、映画を観ることは記憶を失ない、忘れていたことを発見することだという体験にまたしても愕然とした(映画と記憶の話は『牯嶺街少年殺人事件』のパンフ…

母語を失うこと。岩城けい『さようなら、オレンジ』

岩城けいさんの『さようなら、オレンジ』を読みました。難民の、移民の、女性たちの、オルタナティヴなファミリーの可能性を描いた一冊。途中からぼろぼろ泣いてしまった。しかし、この物語だって涙で始まり、誰かの涙によって自分の中の心を発見していくの…

女二人でぴょんぴょん跳ねる。『麦秋』

久々に小津の『麦秋』を観たが、こんなに面白かったっけ……もともと好きだけどちょっとびっくりするほどずっと面白い。小津映画はマジでスルメというか、この前東京国際映画祭で久しぶりに観た『お早よう』とかも信じられないほど面白くてず〜っと笑顔になっ…

深海探索SFにしてAIと研究者のバディものでもある。『In Other Waters』

『In Other Waters』クリア。『サブノーティカ』を彷彿とする異星海底探索ゲームだが、その画面の飛び抜けた地味さをどんどん覆す設定と語りの妙!プレイヤーはあくまでかつての親友を探す女性研究者のサポートAIである……という設定から観測者と創造者を巡る…

結婚報告に「おめでとう」と言わない。『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ ——性と身体をめぐるクィアな対話』

森山至貴さんと能町みね子さんの『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ ——性と身体をめぐるクィアな対話』を読みました。いやぁ痛快!そして勉強になる。というか、やっぱり「勉強」の中にあまり入らなかった話をたくさん聞くことができる。 たとえば、森山さんが…

恐怖と魅力の深淵『メトロイド ドレッド』

『メトロイド ドレッド』、去年Switchを購入してから一番のめり込んでいる。ダークソウルに通じるような「彷徨う」快楽が素晴らしい。それもどうしたらいいかわからなくてウロウロしているのではなくて、「恐いけどこっちに行けば何かが見つかりそうな気がす…

カクヨムはじめました。

あけましておめでとうございます。 ずっと小説書いたり読み合ってきた仲間内が実質的に凍結状態になっているので、実験的にカクヨムに作品を置いておくことにしました。キャッチコピー機能に慄いています。 宇宙からの灰(石川ライカ) - カクヨム

現実と見分けがつかない。『ラルジャン』

ラルジャン ロベール・ブレッソン 《スペシャル・プライス》 Blu-ray クリスチャン・パティ Amazon ロベール・ブレッソンは去年劇場で『たぶん悪魔が』と『湖のランスロ』を観たきりだった。どちらも凄かったが、同時にこの映画をどう観ればいいのだろうと思…

辺境のやさしい二人。『ファースト・カウ』

一昨年の年末の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』へと繋がっていくアメリカの歴史、に取りこぼされた男たちの物語。前評判を裏切らず、とても素晴らしい映画だったと思う。最近受講してた「クィア・シネマ」の講座でゲ…

この映画を千切って捨てたい。『PERFECT DAYS』

淡々と日々を生きる役所広司が年老いたジョン・ウィックみたいだった。映画としては予想通りというか、正直かなり嫌いだったけど写真を千切りまくるシーンだけはカッコよかった。渋谷の大学に日々通っていた自分としてはなんだかプロパガンダじみた東京映画…

2023年の活動報告。BLとクィアの年でした。

2023年の活動報告です。 今年はBL入門の年だったように思う。よしながふみの『大奥』を読んで、角川ミュージアムの『はじめてのBL展』に行って、山岸涼子の『日出処の天子』を読んで、池袋ジュンク堂で溝口彰子さんと高島鈴さんのBL研究トークイベントを聞い…

悪役たちが美味しすぎる。Netflix版『幽☆遊☆白書』

Netflix『幽☆遊☆白書』完走。少年マンガの実写化としては120点くらいあげていいんじゃないだろうか。同じくNetflixの『ONE PIECE』に並ぶクオリティだと思う。冨樫義博の原作にある王道ではないキッチュな魅力がここにもある。でもアクションは一切手を抜か…

オレが時を止めた……『ロキ』シーズン2

『ロキ』S2第1話、話は相変わらずよくわからんが、めちゃ面白かった……舞台が時空警察TVAの施設内のロケーションで進んでいくのがむしろ贅沢で、キー・ホイ・クァンの登場する部屋とか本人の演技も含めてウェス・アンダーソンみたいな楽しさがあったな。キャ…

たくさんの名前、たくさんの場所。川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

ジュリアン・バトラーの真実の生涯 作者:川本直 河出書房新社 Amazon めちゃくちゃ時間かかってたけど、やっと川本直さんの『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』を読み終えました。今年の夏に読んでいたデイヴィッド・ハルプリンの『聖フーコー ゲイの聖人…

観客の視線を唆す「手」。ロベール・ブレッソン『スリ』

『ラルジャン』に続いて『スリ』を観た。ロベール・ブレッソンが「手」を撮る映画作家だというのはよくわかった。「うかつだった」と言いながらも刑事に近づいていったりする主人公、ナレーションが自分の行為に常に被さってくる感じもかなりフィンチャーの…

感想が書けない。鬼頭莫宏『なるたる』

鬼頭莫宏『なるたる』を読み終わった。中学生の頃初めて『エヴァ』を観た時のような、自分が触れたことない精密で奇妙でもしかしたらとても恐ろしいもの、そんなフィクションに触れた感覚になる。展開や設定がわからないというより、この作品を受信するチャ…

死ぬことはドラマじゃない。『機動戦士ガンダムSEED』

1月の完全新作劇場が観たくて、今年の夏からガンダムSEEDを見始めて、今はDESTINY の40話まで観た。単刀直入に言えば、SEED終盤の展開がトラウマになってしまって、ここまで感想を書くことができなかった。 富野監督以外のガンダムシリーズを観るのは『水星…

潮風は長編漫画の夢を見るか? ――阿部共実と施川ユウキと黒田硫黄の〈海〉、そして無風状態――

後輩が阿部共実さんの漫画『潮が舞い子が舞い』の同人誌を作って冬コミに出すというので、評論だかエッセイだかわからない13000字の駄文を寄稿しました。話したいことは全部書いた。まだ完成してませんが、「コミックマーケット103 日曜日(12/30) 東地区 “ノ…

さいたま国際芸術祭2023に行ってきました。

さいたま国際芸術祭2023に行ってきました。 3年に一回やってるらしいけど全然認知してなかった。何もわからず一人でふらっと行ってみたけどすげー楽しかった。それぞれのアーティストの作品も面白いけど、何よりも今回の芸術祭のディレクションを務めたアー…

放浪の女騎士たち。『アソーカ』

『アソーカ』を完走した。最終話はちょっと泣いてしまった。 『アンドー』『マンダロリアン』に次ぐSWドラマの傑作。物語が進むほど中世騎士物語という趣が強くなっていくのもカッコよかった。女騎士たちの戦いと連帯。サビーヌ・レン、『反乱者たち』未履修…

失敗とお仕事。『ザ・キラー』

感無量……映画監督で一番好きなフィンチャーのこんなキレッキレの殺し屋映画が観れるなんて。ジョン・ウィックやイコライザーと重なるところもありながら「仕事への諦観」と「人生への執着」にやられた。ドライと情熱の狭間でターゲットに接近していくファス…