純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

老船長はフィルムカメラを回す『NOPE』

ぶっちぎりで今年のベスト映画体験。池袋グランドシネマサンシャインIMAXレーザーGTで観たが、これまで観てきたどのIMAXよりも素晴らしかった。ノーラン作品(今作も撮影監督はホイテマ!)やトップガンも映像体験として凄かったと思うけど、何よりも今作はカメラを使って大いなる捕食者に対峙する物語なのだ。何重の意味でも極上の「映画」体験だった。

ジョーダン・ピール監督作品は個人的には『ゲットアウト』で盛り上がって『アス』で肩透かしというか、社会批判の文脈が物語のプロットに噛み合っているかどうかが割とアンバランスな気がしていて不安もあったのだが、今作はそれがSF的想像力と西部劇的な活劇のとにかく登場人物が運動しまくるパワーによって完全に調和していた。監督の現時点の最高傑作だと思う。AKIRAとかエヴァとか(一番搾りってそういうこと!?)ジョーズとかE.T.とか、ジョジョSBRだとか色々言われているしジャンル的な引用もその通りだと思うのだけれど、一方で実在の凄惨な事件をモチーフにしたスティーヴン・ユアンチンパンジーにまつわるパートが素晴らしかった。あのサブプロットが浮いているようでいて恐怖のパートとしては超一級のキツさをもたらしているし、彼ら家族と白人たちの「捕食」になぞらえたショービジネスが残した傷とその回復の場面がまた残酷でとても好きだった。(おそらくパークの経営主となった彼はいまだに立ち直れていないし、だからこそ自身のショーに過去の事件の被害者である彼女を呼んで集団セラピーのように自分達の「生」に向き合おうとしたのだろう)

それでも残る人生の謎……「あの事件の時の立ったままの靴は何だったのか?」その謎に立ち向かうものの方法が間違っているのでひどい結果しかやってこないという展開はとてもホラー映画だしジョーダン・ピールの味付けが存分に出ていたと思う。スティーブン・ユアン大好きなんだよな……(スピンオフドラマ作ってくれないかな)空からやってくる捕食者Gジャンはまんまエヴァ使徒みたいだったけど、その口が四角く区切られているのも「見られている」「撮られている」カメラの暴力そのものだろうし、それでも撮影することは搾取してくる世界に叛逆することでもある。監視カメラが用いられるのは自分達の命をどう守るかという現実にそのまま繋がっている。それをカウボーイ/カウガールの黒人兄妹が成し遂げること。音楽の使い方も含めて本当に胸躍る体験だった。『ジョーズ』が封切りされた時代の衝撃の一端を味わったような、映画史に刻み込まれた作品だと思う。大袈裟ではなく、ジャイアントキリングの瞬間だった。