純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

俳優たちの王国『ナルコの神』

全キャラ、全役者あまりにも魅力的。どの方向向いても名優がいるし、この物語のど真ん中の玉座に座って動かないファン・ジョンミン神父様は最高の笑顔でこっち向かせようたしてくる。話としては韓国を捨てて南米スリナムで王国を作ろうとしている男に出会ってしまった男の話で、ちょっと『地獄の黙示録』ぽくもあるのだけれど面白いのはそれが麻薬とカルト宗教を駆使した「ビジネスマンの王国」であるところで、民間人だったはずの主人公が最後まで神と対峙していられるのもビジネスマンの魂で渡り合っていたから。

この「ビジネスマンの王国」というのはぶっちゃけ儲かればよい、という話なのだが、それはドラマ全体が「面白ければよい」という監督のスタンスでジャンルやテーマに拘泥せずにとにかく男達が動き回る様を面白く描くことに終始しているのにも似ている。「面白ければよい」というエンターテイメントの徹底ぶりは監督の過去作『群盗』とかも思い出した。友情も裏切りも復讐もあるけど、全然しっとり描かれず、金が流通するようにゲームとして生き抜くために「いまどうするか」という反射神経が試されていく。神父を捕まえるという大義名分は示されつつも、正直主人公がそれを捨てて新たな神になろうとしても視聴者はすんなり受け入れたのではないだろうか。とにかく名優が泳ぎ回る姿を観ることの方が僕らには大事なのだから。

あと、長くなってしまったけど自分が一番嬉しかったのは中国マフィア役のチャン・チェン。恥ずかしながら最近になって『牯嶺街少年殺人事件』の主人公「小四」だったことや『ブエノスアイレス』の旅する青年役だったことを把握したので、彼にどれだけ青春について考えさせられてきたか、恩は海より深い。今回はちょっとゲストポジションながらも出てくる度に気持ちいい風を吹かしてくれているようで、本当贅沢なドラマ……と思ってしまう。サスペンスやバイオレンスというよりは、ユン・ジョンビン監督らしくある種の軽さも纏って物語が走っていく臨場感が魅力だったと思う。毎回主人公が無敵メンタルっぽくなるのもお約束。好きな役者の宝石箱を開けたみたいで本当に楽しい6時間だったな。