純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

読むたびに本を閉じて溜息をつく。よしながふみ『大奥』

 ゆっくりと噛み締めるようにしか読めない『大奥』、17巻まで来た。時代は第二次長州征討。ここまで読んできて『大奥』は大体三部構成になっていたと思うのだが、その末尾を飾るであろう最愛の二人が徳川家茂和宮。最後にこんなクィアな、ケアする愛が待っているとは。そして来るべき徳川慶喜が怖い。

 『大奥』18巻、帰りの電車でもう泣けて泣けてしょうがないので一旦閉じる。鼻水がやばい。上様の死、遺言とその伝達、そして何よりその後の「お菓子」のエピソードもうダメだ……周りにいる男達も全員推しです。あまりにつらい。何度も死が巡ってくる作品だが、同時に喪失からの回復が何度も描かれる。『大奥』、思い返せばカステラや京菓子、また大奥の厨房での出来事が細部を彩り、時に物語を大きく動かす。印象深い挿話として料理人が登場したりする。大奥という空間が「食」についてのエピソードで下支えされているのも『きのう何食べた?』を長期連載しているよしながふみならでは。

 『大奥』19巻(最終巻)、半分まで読んだ。あまりにも、あまりにも……西郷隆盛とのあの歴史的と言うしかない会談にいたメンバーはどこまで史実通りなんだろうか。間違いなくこれまで読んできた中で最も熱い場面だった。徳川の大河でありながら、フィクションでしか描けない女達の歴史がここにある。

f:id:is_jenga:20230323004814j:image『大奥』17巻から最終巻までは勿体なくて読むのを止めてしまっていて、今日一気に読んだ。

 よしながふみ『大奥』全19巻、読了。言葉が出ない。歴史を扱ったフィクションとして、いや読んできた漫画の中でも一番感動した作品かも知れない。三代将軍徳川家光から十五代将軍徳川慶喜までの300年近いスケールが描かれる。八代将軍吉宗までの男女逆転に至る歴史SF的興奮に満ちた第一部、その原因である赤面疱瘡根絶の戦いが描かれる第二部、そして幕末の動乱を幕府側の視点で描く第三部と、どの時代も忘れられない人々がいて、各巻ごとに涙が出てうまく読み進められないという初めての読書体験だった。傑作というしか言いようがない。ドラマ放送をきっかけで読んだが、一生ものの出会いだった。

 鎌倉幕府以来七百年以上続いてきた、征夷大将軍を頂点とする「武士の時代」の終わりーーこれは『大奥』の終盤に語られる台詞だが、昨年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で描かれた武家政権の誕生から始まった世界が、これほどまでに残酷なものになっているという点で一つなぎの読書をしているようだった。今年の大河ドラマも『どうする家康』だし、日本の歴史を語るフィクションにはすごい力と熱量があると再確認した。『大奥』の推しは何人もいるが、クィアなキャラクターが好きなのでやっぱり平賀源内と和宮様が好きです。本当にかっこいい二人だった。しかし最終巻の瀧山よ……思い出すだけで涙が滲む。最終巻、西郷隆盛(これもかなりいいバランスで描いているなと思った。西郷ああいうこと言いそうだし)との会談で泣き、瀧山で泣き、梅子で泣く。本当すごい漫画だよ……間違いなく人生で一番泣いた漫画です。