純粋なのは不死ばかり

映画の感想とか小説とか。

高橋洋の最高傑作?『ザ・ミソジニー』

昨日は友人と『ザ・ミソジニー』を観たんですが、今年の夏の心霊体験はこれ一本観ておけばいいんじゃないかと思う。物語は何一つ理解できなかったけど(エルデンリングくらい難解)もう最初っから霊気が満ちていて後半の召喚儀式に至るまで一切のダレ場なし。この映画が存在することが怖いタイプの映画。ぶっちゃけ高橋洋の最高傑作なんじゃないか。何回観ても理解できないだろうなぁと思うけど、既に何かを受け取ってしまった、感受してしまった感覚がたしかにあるのだ。大袈裟に言うなら、映画鑑賞を超えてしまった「何かわからない凄まじいものに遭遇した」純然たるホラー体験と言えるのかもしれない。黒沢清が言っていたように、ホラー映画があるのではなく、映画を観ることが自分を変質してしまうホラー体験なのだ。あと仮面ライダーみたいなワクワク感もインフレ感もあるので、めちゃくちゃエンターテイメントしています。

ナイトシティは返ってくる。『サイバーパンク:エッジランナーズ』

 まさかここまで無情な結末を見せつけられるとは。たしかにゲーム本編もどのルートを選んでも失うものの大きさに驚かされたが、蛍光色でクールでバイオレントなこの物語もまた、同じ寂寞感をもたらしてくれた。これこそがサイバーパンク体験なのだと思う。Vもデイビッドも、同様にナイトシティというリヴァイアサンに飲み込まれてしまった若者達の一人に過ぎないのかもしれない。しかしBDや伝説となって、彼らの物語は私たちに引き継がれる。前日譚としてこれ以上ない脚本。そして生き残った「潜水の女神」である彼女達は再び死と夜の狭間に潜っていく。

 最初にビジュアル見た時はなんか軽いなぁと思ってしまったんだけど、主人公が学生であるという点が日本のアニメとしてここまで力強い演出に繋がっていくとは思わなかった。あと街並みが完全再現されてて最初は「ああ……俺も昔その街にいたんだよ」みたいな懐かしい気持ちにさせられるのがかなり不思議なアニメ体験でした。アニメ化企画としては満点だと思う。インタビューとか読むと脚本はポーランドで書いて、それを日本で直して、というのを二年間かけてやったらしいし。そりゃこの愛と熱量になるよ。

 個人的に6話がタームポイントというか、急転直下の事態になっていく「兄貴」が攻殻のバトーに似てて、あとグレンラガンのカミナも連想して、めちゃくちゃ辛い気持ちになりました。でもこの苦さがナイトシティを生きることなんだと思う、できることならシーズン2作って欲しいけど、難しいだろうな……

俳優たちの王国『ナルコの神』

全キャラ、全役者あまりにも魅力的。どの方向向いても名優がいるし、この物語のど真ん中の玉座に座って動かないファン・ジョンミン神父様は最高の笑顔でこっち向かせようたしてくる。話としては韓国を捨てて南米スリナムで王国を作ろうとしている男に出会ってしまった男の話で、ちょっと『地獄の黙示録』ぽくもあるのだけれど面白いのはそれが麻薬とカルト宗教を駆使した「ビジネスマンの王国」であるところで、民間人だったはずの主人公が最後まで神と対峙していられるのもビジネスマンの魂で渡り合っていたから。

この「ビジネスマンの王国」というのはぶっちゃけ儲かればよい、という話なのだが、それはドラマ全体が「面白ければよい」という監督のスタンスでジャンルやテーマに拘泥せずにとにかく男達が動き回る様を面白く描くことに終始しているのにも似ている。「面白ければよい」というエンターテイメントの徹底ぶりは監督の過去作『群盗』とかも思い出した。友情も裏切りも復讐もあるけど、全然しっとり描かれず、金が流通するようにゲームとして生き抜くために「いまどうするか」という反射神経が試されていく。神父を捕まえるという大義名分は示されつつも、正直主人公がそれを捨てて新たな神になろうとしても視聴者はすんなり受け入れたのではないだろうか。とにかく名優が泳ぎ回る姿を観ることの方が僕らには大事なのだから。

あと、長くなってしまったけど自分が一番嬉しかったのは中国マフィア役のチャン・チェン。恥ずかしながら最近になって『牯嶺街少年殺人事件』の主人公「小四」だったことや『ブエノスアイレス』の旅する青年役だったことを把握したので、彼にどれだけ青春について考えさせられてきたか、恩は海より深い。今回はちょっとゲストポジションながらも出てくる度に気持ちいい風を吹かしてくれているようで、本当贅沢なドラマ……と思ってしまう。サスペンスやバイオレンスというよりは、ユン・ジョンビン監督らしくある種の軽さも纏って物語が走っていく臨場感が魅力だったと思う。毎回主人公が無敵メンタルっぽくなるのもお約束。好きな役者の宝石箱を開けたみたいで本当に楽しい6時間だったな。

国岡どうでしょう。『グリーンバレット 最強殺し屋伝説国岡[合宿編]』『最強殺し屋伝説国岡 外伝 国岡ツアーズ大阪編 蘇る金のドラゴン なにわアサシンの逆襲』

 阪元監督作品は『ベイビーわるきゅーれ』が面白かったものの『黄龍の村』にノレなかったこともあって未だに相性が微妙なところがあったのだが、この国岡シリーズだけは別格。思うに、『ベイビーわるきゅーれ』の二人の美少女に銃を持たせたり漫画的な台詞を言わせる気恥ずかしさや『黄龍の村』の奥があるようでないオカルト描写の食い合わせが悪かったのだと思う。

 今作『グリーンバレット』ではミスマガジンの新人女優6人を主演に据えたことでむしろそれを捉える阪元カメラマンや教官国岡の視点が固定されて見やすくなったのだと思う。ポンコツ殺し屋ボーイズたちが女の子たちをサポートする構図は「林間学校」の台詞の通りどこか教育的で、癒しの場でもあった。その分アクションパートは薄味というか、敵側の殺し屋の個性は前作よりも弱い。ここの「キャラの弱さ」は直前に白石監督の『オカルトの森』を観ていたのでより強く感じてしまった。

 しかしそれを補ってあまりある新キャラがカメラ補佐の大坂くん。まーたテンプレ的な嫌味なやつかと思ったら謎の上から目線で国岡達に点数をつける饒舌が次第に絆され、国岡の人間性(だと思う)に感銘を受けていく姿は完全にギャグなのに感動的だった。大阪くんの成長物語じゃん。間違いなく今作で一番面白いのは合宿の夜に毎回強制開催される大阪反省会とツッコミを入れ続ける国岡のやりとり(癒し担当真中もいる)。たまたまトーク付きの上映だったが、本当は阪元監督も交えて四人で語り合う予定が笑いが堪えきれないのでカメラの後ろに逃げたという裏話を聞けて納得した。完全に『水曜どうでしょう』の領域に踏み込んでいる。このままやってくれ。

 

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 『国岡ツアーズ大阪編』は『グリーンバレット』の後日談。

 『グリーンバレット』を観た友人がそのままBlu-rayを購入していたので友人宅で観た。もう完全に『水曜どうでしょう』です、ありがとうございます。『グリーンバレット』上映後のトークで男子チームの帰路の車内で国岡、真中、阪元カメラマン相手に板尾創路が40分ボケ続けた(本編未収録)という話があったのだが、その空気感を心ゆくまで楽しめるボーナストラックとも言える70分。個人的には『グリーンバレット』本編よりも好きです。チラッと殺丸の名前とかも出てきて嬉しい。

 トークでは白石監督のフェイクドキュメンタリー愛には叶わないと言っていたが、国岡シリーズで阪元監督が繰り返し描く虚実の間、台本とアドリブが渾然一体となっていくドライブ感は唯一無二のものになっている。もう熱狂してます。国岡シリーズのレギュラー四人組が完成した瞬間に立ち会えたような気すらしている。

追記

 国岡役の伊能くんが自身のnoteでフィクション内フィクションである「国岡日記」を更新していた。今日はじめて本人を見たけどあまりに誠実な人柄が滲んでいて、ずっと応援しようと思った。

老船長はフィルムカメラを回す『NOPE』

ぶっちぎりで今年のベスト映画体験。池袋グランドシネマサンシャインIMAXレーザーGTで観たが、これまで観てきたどのIMAXよりも素晴らしかった。ノーラン作品(今作も撮影監督はホイテマ!)やトップガンも映像体験として凄かったと思うけど、何よりも今作はカメラを使って大いなる捕食者に対峙する物語なのだ。何重の意味でも極上の「映画」体験だった。

ジョーダン・ピール監督作品は個人的には『ゲットアウト』で盛り上がって『アス』で肩透かしというか、社会批判の文脈が物語のプロットに噛み合っているかどうかが割とアンバランスな気がしていて不安もあったのだが、今作はそれがSF的想像力と西部劇的な活劇のとにかく登場人物が運動しまくるパワーによって完全に調和していた。監督の現時点の最高傑作だと思う。AKIRAとかエヴァとか(一番搾りってそういうこと!?)ジョーズとかE.T.とか、ジョジョSBRだとか色々言われているしジャンル的な引用もその通りだと思うのだけれど、一方で実在の凄惨な事件をモチーフにしたスティーヴン・ユアンチンパンジーにまつわるパートが素晴らしかった。あのサブプロットが浮いているようでいて恐怖のパートとしては超一級のキツさをもたらしているし、彼ら家族と白人たちの「捕食」になぞらえたショービジネスが残した傷とその回復の場面がまた残酷でとても好きだった。(おそらくパークの経営主となった彼はいまだに立ち直れていないし、だからこそ自身のショーに過去の事件の被害者である彼女を呼んで集団セラピーのように自分達の「生」に向き合おうとしたのだろう)

それでも残る人生の謎……「あの事件の時の立ったままの靴は何だったのか?」その謎に立ち向かうものの方法が間違っているのでひどい結果しかやってこないという展開はとてもホラー映画だしジョーダン・ピールの味付けが存分に出ていたと思う。スティーブン・ユアン大好きなんだよな……(スピンオフドラマ作ってくれないかな)空からやってくる捕食者Gジャンはまんまエヴァ使徒みたいだったけど、その口が四角く区切られているのも「見られている」「撮られている」カメラの暴力そのものだろうし、それでも撮影することは搾取してくる世界に叛逆することでもある。監視カメラが用いられるのは自分達の命をどう守るかという現実にそのまま繋がっている。それをカウボーイ/カウガールの黒人兄妹が成し遂げること。音楽の使い方も含めて本当に胸躍る体験だった。『ジョーズ』が封切りされた時代の衝撃の一端を味わったような、映画史に刻み込まれた作品だと思う。大袈裟ではなく、ジャイアントキリングの瞬間だった。

『ベター・コール・ソウル』が終わってしまった。(ネタバレあり)

14年間の現実が終わってしまった。自分がこの物語を追っていたのは3年間ほどだけど、この時が来るのを心待ちにしていたし、やっぱり終わりを観るのは怖かった。しかしあまりにも素晴らしい幕引きに言葉もない。特にこの最終シーズンは冒頭数話でナチョの最期を見届けさせ、ガス帝国が出来上がる最後のピースであるラロとの果し合いを西部劇のような激情と恐怖の筆致で描き上げたあとの6話が凄まじい。キムとジミーは僕にとって永遠の二人です。あの最後の6話を見届けた数週間の緊張、恍惚は一生ものだと思う。見届けられてよかった。

(とか言いつつ7話のハワードの最期は見終わった今になってもトラウマというか、見返すのが恐い。あの場面で空けられた第8話が放送されるまでの一ヶ月半のなんと苦しかったことか。『ブレイキング・バッド』からそうだけど、永遠に消えない傷を観客に残していくシリーズだ。)

一気にラストシーンの話に飛んでしまうのだけれど、やっぱり最後のジミーのバン、バン、という仕草を受けたキムの表情、身体、手つきにこの物語の全てが込められていたと思う。僕はキムが撃ち返さなくてよかったと思うし、それでもその仕草を受け止めることのできる、言ってしまえば弁護士としての魂を取り戻した彼女を見ることができた、その感動がすごい。そしてそれで終わらない、あの古典的な、王道的なラストショットの完璧さ!いうのも野暮だけど『ゴッドファーザー PART II』のような、『アイリッシュマン』のラストショットのような、しかしそれを超えていくだろう86年?の二人の未来を思わせるラストショットだった。だって彼は世界で二番目の弁護士なのだから。残酷だけど最後の最後まで美しい物語を本当にありがとう。

恐怖と嫌悪の旅もここまで。『ラスベガスをやっつけろ』

60年代にサヨナラを!というヒッピーカルチャー狂い咲き(要するにドラッグ)映画なのだと思うが、テリー・ギリアムのゴテゴテ面白画面がふとした時に本当に映画全体がシラフになったような雰囲気を漂わせてドキッとする。多分これはカメレオン俳優ジョニー・デップの(今回もハゲ頭サングラスという異様な風貌ながら)素の状態がもはやわからなくなってしまうような演技力の向こう側を見てしまったような気持ちになるからか。一貫してジョニー・デップ視点が貫かれるのもデルトロの相棒感(最終的には「神の作った試作品だ」とまで語られる)を高めてて良いし、二人が交互にトリップしたり戻ってきたりするのも面白い。いやしかし、終わり方が最高だったな。テリー・ギリアムらしい時系列ズラした引っかけが効いている。ジョニー・デップは最後あの荒れ果てた部屋でタイプライターを打ち続けるしかないのだろうし、同時に荒野を吹っ飛ばしてもいるのだ。今思ったけど、それって完全にケルアックの『オンザロード』ってことだな……トリップ映画のど真ん中ストレート。