純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

新作映画

世界を滅ぼす確率に目を瞑る。『オッペンハイマー』

やっと観に行くことができた。観る前はかなり緊張していて、原爆を扱った映画としてもノーランのファンとしても不安だったのだけれど、観てしまったのちはむしろ興奮は少なく、どこかオッペンハイマーの虚無と絶望が伝わってきたような凪いだ気持ちになった。…

今この世界に必要な二作。『RHEINGOLD ラインゴールド』『美と殺戮のすべて』

今週末は立て続けにすごい映画を2本も観てしまった。自分が最近考えていて、勉強していたこととどんどん繋がっていくし、どれも現代日本の問題と切り離せない。一方で、エンターテイメント作品としての完成度も凄まじい『RHEINGOLD ラインゴールド』は現時点…

憧れのアピチャッポン監督のVR作品とトークを聞いてきました。

日本科学未来館でアピチャッポン・ウィーラセタクンのVR作品『太陽との対話』を体験してきた。 まず最初に見せられる断片的な映像群が紛れもなくアピチャッポンの撮ったバキバキにカッコいいショットだらけで感動した。年末年始にクィア・シネマの講座を受け…

縮こまった肉体に隠された欲望。『Saltburn』

今年観た中で最もエキサイティングで最も面白い……お手本のようなパリー・コーガンの使い方。2時間を通して熱が迸っていくようだった。ロザムンド・パイク繋がりで『ゴーン・ガール』くらい面白いと言えば伝わるだろうか。 バリー・コーガンはもちろん演技や…

観るものの視線も改造する映画『哀れなるものたち』

ヨルゴス・ランティモス監督作品は好きかどうかは別としてどんどんやってくれ!という気持ちになる。 女性の身体についての細かい言及(男達からまなざされる身体でもあるが......しかし)が多く、観ていて『バービー』を強く思い出した(ダンスバトルのシー…

映画はどこからやってくるのか?『瞳をとじて』

映画を観ていて、奇跡というものはこのように起きるのかと感じたのは生まれて初めてだった。生涯でこんな映画体験をすることができるとは。前半こそ、このテンポで169分いくのか……と思って観ていたが鮮烈という他ない「海」が飛び込んできて(あのゴールポス…

辺境のやさしい二人。『ファースト・カウ』

一昨年の年末の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』へと繋がっていくアメリカの歴史、に取りこぼされた男たちの物語。前評判を裏切らず、とても素晴らしい映画だったと思う。最近受講してた「クィア・シネマ」の講座でゲ…

この映画を千切って捨てたい。『PERFECT DAYS』

淡々と日々を生きる役所広司が年老いたジョン・ウィックみたいだった。映画としては予想通りというか、正直かなり嫌いだったけど写真を千切りまくるシーンだけはカッコよかった。渋谷の大学に日々通っていた自分としてはなんだかプロパガンダじみた東京映画…

失敗とお仕事。『ザ・キラー』

感無量……映画監督で一番好きなフィンチャーのこんなキレッキレの殺し屋映画が観れるなんて。ジョン・ウィックやイコライザーと重なるところもありながら「仕事への諦観」と「人生への執着」にやられた。ドライと情熱の狭間でターゲットに接近していくファス…

一人でも多くの瞳を。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

ラスト、80歳のマーティン・スコセッシ監督の瞳にデヴィッド・バーンと同じ怒りを観た。歴史について考えている人にはぜひ観てほしい作品。こんな映画を観ることができたことに、今はただ感謝の気持ちで一杯です。原作読んでもう一回観に行きたい。 今年はス…

渡辺謙と爆弾のかわいさ対決。『ザ・クリエイター/創造者』

久々に超ストレートなSF大作が観れると思い、朝イチのグラシネIMAXで観た。話はわりとアホっぽかったりAKIRA過ぎたりはするけど、期待してたシモン・ストーレンハーグ的なSF世界の構築は余す所なく観れたので大満足。AIと共存するニューアジアの方がメカはダ…

最高の階段。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

何よりもまず忘れられないのは後半に登場する建物内での『ホットライン・マイアミ』完全再現ワンカット。ジョン・ウィックが二階に上がる(ステージに入る)階段の隅に隠れるところからゆっくりと浮き上がるカメラがやがて天井を超えた俯瞰視点に到達する。良…

韓国映画の到達点。『HUNT』

この映画に全てがある。 この映画のために自分は韓国映画を観てきたのだと思った。昨日の夜に『1987、ある闘いの真実』を観ていたのもとてもよかった。今年これを超える映画はないだろうと思う。 イ・ジョンジェを知ったのは『イカゲーム』からであり、そこ…

あまりにチルすぎて泣いてしまう。『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』

めちゃくちゃクィアでストリートでサイバーパンク!アクションシーンがチル過ぎて最高。音楽ネタ多くて、みんなでBTS口ずさむところとかジンときちゃったな。そしてもちろん最高にNINJA!巨大な敵にスケボーで立ち向かう辺りからずっと泣いてた。 エンドロー…

氷の世界に揺蕩う。『バーナデット ママは行方不明』

もしかしたらリンクレイター監督作品で一番好きかもしれない。メンタルヘルスと家族(そして建築!)の話だと思っていたが、あの土砂降りを機に映画がどんどん未開の大地へと転がっていく。間違いなく人生で一番好きな南極映画。小学生の頃の将来の夢が南極に…

物語は誰のものか? 『小説家の映画』

とってもとっても良かった。日雇い早上がりしてそのまま映画館に行って、最初の20分くらい爆睡しちゃったけどすごい好きだった。ホン・サンスはずっと気になっていた監督で『逃げた女』とあともう一本くらいみた覚えがあるけど掴みどころがなくて、でもそれ…

このタイトルが大好き。『シャン・チー テン・リングスの伝説』

『ロキ』あたりからマーベルもういいかな……の気分になっていたのだが、もうこれで吹っ飛んだ。単独一作目では一番好き(あ、でもガーディアンズは)。『カンフー・ハッスル』丸出しなアクションも素晴らしいが、やっぱりバスの場面のパルクールと功夫を組み…

キー・ホイ・クァンに泣く。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

なぜか観ている途中で三回くらい泣いてしまった。『シャン・チー』も泣いたけど俺はとにかくカンフーに弱い。よく言われているけどたしかにクレヨンしんちゃんと同じエナジーを感じる。故に泣いてしまうんだよ……カンフーは滑稽だしカッコいいし自由だ。あの…

ボーイミーツガールミーツ震災。『すずめの戸締まり』

いままでの新海作品で最も災害と真摯に向き合った作品だと思った。えらそうな事を言えば、作家としての成熟や覚悟を感じた。映画を観ていて途中まではすずめ「が」戸締まりしなきゃいけない話だけど、すずめ「の」戸締まりじゃなくない?と思ったら最後にす…