純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

読書

母語を失うこと。岩城けい『さようなら、オレンジ』

岩城けいさんの『さようなら、オレンジ』を読みました。難民の、移民の、女性たちの、オルタナティヴなファミリーの可能性を描いた一冊。途中からぼろぼろ泣いてしまった。しかし、この物語だって涙で始まり、誰かの涙によって自分の中の心を発見していくの…

たくさんの名前、たくさんの場所。川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

ジュリアン・バトラーの真実の生涯 作者:川本直 河出書房新社 Amazon めちゃくちゃ時間かかってたけど、やっと川本直さんの『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』を読み終えました。今年の夏に読んでいたデイヴィッド・ハルプリンの『聖フーコー ゲイの聖人…

旅を増幅する装置としての王国病院、テレビドラマ。多和田葉子『星に仄めかされて』

星に仄めかされて (講談社文庫) 作者:多和田 葉子 講談社 Amazon 多和田葉子『星に仄めかされて』を読んだ。 前作『地球にちりばめられて』はHirukoが旅をして様々な人々に出会う話だったけど、今作は言葉を失ったSusanooにみんなが会いに来る。コペンハーゲ…

太宰治の「右大臣実朝」を読んで、実朝の墓参りをしました。

太宰治全集〈6〉 (ちくま文庫) 作者:太宰 治 筑摩書房 Amazon 結局鎌倉旅行には全然間に合わなかったけど、太宰治の「右大臣実朝」を読みました。いやー面白いです。最初はなんで太宰が実朝を?という気持ちだったのだけれど、読んでるうちに太宰治特有の「…

旅をしたら世界が散らかる。多和田葉子『地球にちりばめられて』

多和田葉子「地球にちりばめられて」、やっと読み終わった。大好きすぎる!!!多和田葉子は裏切らない。 ドイツやデンマークや南フランスを旅してHirukoがSusanooに出会う話のようではあるが、それが「ハッピーエンド」と呼ばれるような定められた「故郷を…

この本があることがSFである。『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン: 実績・省察・評価・総括』

昨日は株式会社カラー『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン: 実績・省察・評価・総括』を読みました。結構厚いなーと思っていたのにどこかSF作品世界の内部文書を読んでいるような奇妙なフィクション感があり(内容は極めてデータ主義の事実の評価で構成さ…

あっけからんとした文章と戸惑い。金川晋吾『いなくなっていない父』

金川晋吾『いなくなっていない父』成田空港までに読みおわった!いま読むべくして出会った本な気がする。この本を読む確固たる理由はないままに(そしてそういう曖昧さに負けてよく読みかけの本を積んでしまう)、ただ気になるから読むというのができた。電車…

小説(他世界)との幸福な関係。『ファンタジスタドール』

野崎まどの前日譚小説『ファンタジスタドール イヴ』を先に読んでからアニメ本編を観るというちょっとズレた入り方をした。小説は屈折した青年が大学生活でどんどん歪んでいく反=青春小説かと思いきや、後半はどんどん<質量傾斜実験>にドライブしていく濃厚…