純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

2023-01-01から1年間の記事一覧

現実と見分けがつかない。『ラルジャン』

ラルジャン ロベール・ブレッソン 《スペシャル・プライス》 Blu-ray クリスチャン・パティ Amazon ロベール・ブレッソンは去年劇場で『たぶん悪魔が』と『湖のランスロ』を観たきりだった。どちらも凄かったが、同時にこの映画をどう観ればいいのだろうと思…

辺境のやさしい二人。『ファースト・カウ』

一昨年の年末の『パワー・オブ・ザ・ドッグ』や『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』へと繋がっていくアメリカの歴史、に取りこぼされた男たちの物語。前評判を裏切らず、とても素晴らしい映画だったと思う。最近受講してた「クィア・シネマ」の講座でゲ…

この映画を千切って捨てたい。『PERFECT DAYS』

淡々と日々を生きる役所広司が年老いたジョン・ウィックみたいだった。映画としては予想通りというか、正直かなり嫌いだったけど写真を千切りまくるシーンだけはカッコよかった。渋谷の大学に日々通っていた自分としてはなんだかプロパガンダじみた東京映画…

2023年の活動報告。BLとクィアの年でした。

2023年の活動報告です。 今年はBL入門の年だったように思う。よしながふみの『大奥』を読んで、角川ミュージアムの『はじめてのBL展』に行って、山岸涼子の『日出処の天子』を読んで、池袋ジュンク堂で溝口彰子さんと高島鈴さんのBL研究トークイベントを聞い…

悪役たちが美味しすぎる。Netflix版『幽☆遊☆白書』

Netflix『幽☆遊☆白書』完走。少年マンガの実写化としては120点くらいあげていいんじゃないだろうか。同じくNetflixの『ONE PIECE』に並ぶクオリティだと思う。冨樫義博の原作にある王道ではないキッチュな魅力がここにもある。でもアクションは一切手を抜か…

オレが時を止めた……『ロキ』シーズン2

『ロキ』S2第1話、話は相変わらずよくわからんが、めちゃ面白かった……舞台が時空警察TVAの施設内のロケーションで進んでいくのがむしろ贅沢で、キー・ホイ・クァンの登場する部屋とか本人の演技も含めてウェス・アンダーソンみたいな楽しさがあったな。キャ…

たくさんの名前、たくさんの場所。川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』

ジュリアン・バトラーの真実の生涯 作者:川本直 河出書房新社 Amazon めちゃくちゃ時間かかってたけど、やっと川本直さんの『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』を読み終えました。今年の夏に読んでいたデイヴィッド・ハルプリンの『聖フーコー ゲイの聖人…

観客の視線を唆す「手」。ロベール・ブレッソン『スリ』

『ラルジャン』に続いて『スリ』を観た。ロベール・ブレッソンが「手」を撮る映画作家だというのはよくわかった。「うかつだった」と言いながらも刑事に近づいていったりする主人公、ナレーションが自分の行為に常に被さってくる感じもかなりフィンチャーの…

感想が書けない。鬼頭莫宏『なるたる』

鬼頭莫宏『なるたる』を読み終わった。中学生の頃初めて『エヴァ』を観た時のような、自分が触れたことない精密で奇妙でもしかしたらとても恐ろしいもの、そんなフィクションに触れた感覚になる。展開や設定がわからないというより、この作品を受信するチャ…

死ぬことはドラマじゃない。『機動戦士ガンダムSEED』

1月の完全新作劇場が観たくて、今年の夏からガンダムSEEDを見始めて、今はDESTINY の40話まで観た。単刀直入に言えば、SEED終盤の展開がトラウマになってしまって、ここまで感想を書くことができなかった。 富野監督以外のガンダムシリーズを観るのは『水星…

潮風は長編漫画の夢を見るか? ――阿部共実と施川ユウキと黒田硫黄の〈海〉、そして無風状態――

後輩が阿部共実さんの漫画『潮が舞い子が舞い』の同人誌を作って冬コミに出すというので、評論だかエッセイだかわからない13000字の駄文を寄稿しました。話したいことは全部書いた。まだ完成してませんが、「コミックマーケット103 日曜日(12/30) 東地区 “ノ…

さいたま国際芸術祭2023に行ってきました。

さいたま国際芸術祭2023に行ってきました。 3年に一回やってるらしいけど全然認知してなかった。何もわからず一人でふらっと行ってみたけどすげー楽しかった。それぞれのアーティストの作品も面白いけど、何よりも今回の芸術祭のディレクションを務めたアー…

放浪の女騎士たち。『アソーカ』

『アソーカ』を完走した。最終話はちょっと泣いてしまった。 『アンドー』『マンダロリアン』に次ぐSWドラマの傑作。物語が進むほど中世騎士物語という趣が強くなっていくのもカッコよかった。女騎士たちの戦いと連帯。サビーヌ・レン、『反乱者たち』未履修…

失敗とお仕事。『ザ・キラー』

感無量……映画監督で一番好きなフィンチャーのこんなキレッキレの殺し屋映画が観れるなんて。ジョン・ウィックやイコライザーと重なるところもありながら「仕事への諦観」と「人生への執着」にやられた。ドライと情熱の狭間でターゲットに接近していくファス…

運命は変えられるが、やり直せない。『The Cosmic Wheel Sisterhood』

5時間ちょっとでクリア。ラストの選択はとて辛かった。代償や喪失についての物語だと最初に告げられるように、やり直しが効かないセーブシステムも迷いと選択を進んでいく主人公に強く共鳴する仕掛けになっていた。そして次々と現れる魔女たちがめちゃくちゃ…

旅を増幅する装置としての王国病院、テレビドラマ。多和田葉子『星に仄めかされて』

星に仄めかされて (講談社文庫) 作者:多和田 葉子 講談社 Amazon 多和田葉子『星に仄めかされて』を読んだ。 前作『地球にちりばめられて』はHirukoが旅をして様々な人々に出会う話だったけど、今作は言葉を失ったSusanooにみんなが会いに来る。コペンハーゲ…

一人でも多くの瞳を。『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』

ラスト、80歳のマーティン・スコセッシ監督の瞳にデヴィッド・バーンと同じ怒りを観た。歴史について考えている人にはぜひ観てほしい作品。こんな映画を観ることができたことに、今はただ感謝の気持ちで一杯です。原作読んでもう一回観に行きたい。 今年はス…

ねこまち、中華街行き

プラスチックの、温かくもなく冷たくもない人工的な窪みに頭を傾け、転がし、定位置を探す。地下鉄の長い座席の端っこを陣取り、頭がほのかに固定されると、自動的に身体がその滑らかなへこみに馴染んでいく。この時、壁に対して身体は車両の進行方向になけ…

渡辺謙と爆弾のかわいさ対決。『ザ・クリエイター/創造者』

久々に超ストレートなSF大作が観れると思い、朝イチのグラシネIMAXで観た。話はわりとアホっぽかったりAKIRA過ぎたりはするけど、期待してたシモン・ストーレンハーグ的なSF世界の構築は余す所なく観れたので大満足。AIと共存するニューアジアの方がメカはダ…

カメラはどこにあるのか。『モンスターズ/地球外生命体』

モンスター襲来から6年後という設定が同じく低予算SF映画『第9地区』を思わせる。地球外生命体が武力によって隔離されているというのも通じるところがあるし、合わせ鏡のように観ても面白いかも。そう考えると両監督がいまこのタイミングでストレートなSFエ…

最高の階段。『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

何よりもまず忘れられないのは後半に登場する建物内での『ホットライン・マイアミ』完全再現ワンカット。ジョン・ウィックが二階に上がる(ステージに入る)階段の隅に隠れるところからゆっくりと浮き上がるカメラがやがて天井を超えた俯瞰視点に到達する。良…

太宰治の「右大臣実朝」を読んで、実朝の墓参りをしました。

太宰治全集〈6〉 (ちくま文庫) 作者:太宰 治 筑摩書房 Amazon 結局鎌倉旅行には全然間に合わなかったけど、太宰治の「右大臣実朝」を読みました。いやー面白いです。最初はなんで太宰が実朝を?という気持ちだったのだけれど、読んでるうちに太宰治特有の「…

韓国映画の到達点。『HUNT』

この映画に全てがある。 この映画のために自分は韓国映画を観てきたのだと思った。昨日の夜に『1987、ある闘いの真実』を観ていたのもとてもよかった。今年これを超える映画はないだろうと思う。 イ・ジョンジェを知ったのは『イカゲーム』からであり、そこ…

キム・テリの視線の先に。『1987、ある闘いの真実』

女の子のパートが異常にいい。「それで世界が変わるの?」 デモに行く友人を心配する大学生の心情が、恋愛や青春よりも不安に押しつぶされている日常が伝わってくる。独裁政権は実際にソウル大の学生を拷問して殺してしまったが、それと同時に日常を生きる人…

あまりにチルすぎて泣いてしまう。『ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!』

めちゃくちゃクィアでストリートでサイバーパンク!アクションシーンがチル過ぎて最高。音楽ネタ多くて、みんなでBTS口ずさむところとかジンときちゃったな。そしてもちろん最高にNINJA!巨大な敵にスケボーで立ち向かう辺りからずっと泣いてた。 エンドロー…

氷の世界に揺蕩う。『バーナデット ママは行方不明』

もしかしたらリンクレイター監督作品で一番好きかもしれない。メンタルヘルスと家族(そして建築!)の話だと思っていたが、あの土砂降りを機に映画がどんどん未開の大地へと転がっていく。間違いなく人生で一番好きな南極映画。小学生の頃の将来の夢が南極に…

ベルリンに響き渡る破裂音。『アル中女の肖像』

ユーロスペースの「ウルリケ・オッティンガー ベルリン三部作」特集上映で観た。今年一番すごい映画かもしれない。ていうか酒に酔ったことがある人は全員観てくれ(たぶんもう上映は終わってるけど……)。個人的に忙しい期間でこの一本しか観れなかったことを強…

言葉は風に吹き散らされて。阿部共実『潮が舞い子が舞い』

ついに、阿部共実『潮が舞い子が舞い』を読み終わった。心に突き刺さるものを見てしまった罪悪感が散りばめられたような最終巻だった。それはファミレスに置き忘れられた同級生のノートだったり銭湯あがりの「夜の私服女子」だったりするが、二人乗りの水木…

旅をしたら世界が散らかる。多和田葉子『地球にちりばめられて』

多和田葉子「地球にちりばめられて」、やっと読み終わった。大好きすぎる!!!多和田葉子は裏切らない。 ドイツやデンマークや南フランスを旅してHirukoがSusanooに出会う話のようではあるが、それが「ハッピーエンド」と呼ばれるような定められた「故郷を…

ケアに満ちた海賊たちの船出。Netflix版『ONE PIECE』

久しぶりに一気見するくらいは面白かった。荒唐無稽な少年漫画の実写化として(『カウボーイ・ビバップ』の反省も踏まえてか)、製作陣がめちゃくちゃ気合いを入れて強度を作ってきたところとそうでないところの差が激しく、これは限りある予算と尺を使ってド…