純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

もう十分救ってもらった。『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』

 想像以上に沈鬱な、どこか祈りのような映画だったが、それ故に、ある意味ものすごく救いがないようにも取れるラストの「救済」感というか、この映画がフィクションであるがゆえに、それだからこそ、この中の物語でオチをつけて終わらせたくはないというようなラストシーンで、どこか救われたような気持になった。やっぱり、最後の主人公の決断や、愛し続け求め続けた人にかける言葉が「もう十分救ってもらった」であったことなど、人生の受難を受け入れるような物語であるといえるのに、それが「メタル」の「音」を求めるという極めて純粋な方向性で描かれていくので(その「音」には無限に様々な意味が込められているのだが)、宗教っぽくもないし、青春の痛みともまた違い、どこまでも個人的な体験として観客の胸に刻まれる。中盤身を寄せることになるある集団全体の持つ、痛みを共有していく空気もすごいリアルな気がした。しかし、一番つらいのは手術後の「音」がそれまでの人生で聞いてきたものとは全く違ってしまう場面。彼女の「言葉」はわかっても、「声」は永遠に掴めなくなってしまったという絶望。書いていてやっぱり辛くなってきた。あのピアノのシーンも、二人が抱える悲しさが決定的に違っている、それを二人がわかってしまうというのが悲しい。素晴らしい映画だったと思う。今年の春ごろに観た『ロードオブカオス』も素晴らしかったが、メタルを題材にするとなんでこんなに人間の純粋性が際立つのだろうか。映画館で見る価値は大きい作品だと思う。