純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

今この世界に必要な二作。『RHEINGOLD ラインゴールド』『美と殺戮のすべて』

今週末は立て続けにすごい映画を2本も観てしまった。自分が最近考えていて、勉強していたこととどんどん繋がっていくし、どれも現代日本の問題と切り離せない。一方で、エンターテイメント作品としての完成度も凄まじい『RHEINGOLD ラインゴールド』は現時点で今年のベストです。ファティ・アキン監督が物語を、歴史を語る時のバランス感覚はすごい。

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『RHEINGOLD ラインゴールド』
気づいたらファティ・アキン監督の新作が上映されていてびっくり、大慌てで観に行った。ということでほぼ事前情報を入れていなかったのだが、すさまじいエネルギーに満ち溢れた快作だった。中盤の犯罪青春モノとしての疾走感はスコセッシ映画を彷彿とさせるレベル。超おもしろい。同時にクルド人の歴史についての映画であり、移民の映画でたり、自分の境遇から抜け出そうとしたドイツの青年の映画であり、金歯を巡る(犯罪的な)冒険譚でもある。そして何よりHIPHOPが、絶望的な環境で音楽が生まれる瞬間を描いたかけがえのない映画。胸を張って今年のベストと言える作品だった。

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『美と殺戮のすべて』
これはずっと気になっていた映画なのだが、ナン・ゴールディンもオピオイド危機も全然知らなかったのでセメントTHINGさんの記事を頼りに観た。冒頭にゴールディンが言う「人生を物語にするのは簡単。でも、正しい記憶を持つことはとても難しい」という言葉がずっと忘れられなくて、アートから社会運動、政治へのコミットしていく姿に現代日本の様々な問題とそれに抵抗する運動を思い出した。苦難の底にいたゴールディンがドラァグクイーンの写真を撮り始め、「私の写真を見て、自分の美しさに驚く人もいた」と語る場面は感動的だった。

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セメントTHINGさんの記事が非常に勉強になったのだが、「私小説」ならぬ「私写真」とも言われるアーティスト個人の生活から社会問題や生の在り方を映しだす写真の在り方は、記事の中でも触れられているように去年観に行った東京都写真美術館の「深瀬昌久 1961-1991 レトロスペクティブ」展や現在国立近代美術館で開催中の「中平卓馬 火―氾濫」展に繋がっているのだった。去年初めて深瀬昌久の写真を見た時はすごい衝撃を受けた覚えがある。国立西洋美術館の「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?」展とともに、このままどんどん観に行きたいと思う。

 

『美と殺戮のすべて』が映すナン・ゴールディンの肖像。痛みに満ちた生が「美」を通して立ち上がる | CINRA

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映画『RHEINGOLD ラインゴールド』公式サイト

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映画『美と殺戮のすべて』オフィシャルサイト