純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

憧れのアピチャッポン監督のVR作品とトークを聞いてきました。

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 日本科学未来館アピチャッポン・ウィーラセタクンVR作品『太陽との対話』を体験してきた。

 まず最初に見せられる断片的な映像群が紛れもなくアピチャッポンの撮ったバキバキにカッコいいショットだらけで感動した。年末年始にクィア・シネマの講座を受けていて、映像スクリーンが複数あることやそれが相互に関連して機能していることが映画館の外側で上映しうる映画(映像)の可能性なのだと思ったが、今回の映像は一枚の平面スクリーンの表裏に映像を投影することで、鑑賞者があたかもその周りを衛星軌道のように自由にぐるぐると回り続けていくのが面白かった。自分の身体が作品とともに運動すること、そしてVRを装着すると装着者が今度は光る点によって表示される、非装着者の見えない星とともにその空間に存在するという手触りがすごい面白かった。

 VR部分もかなり好きなことやってるな〜って感じで清々しかったな。あの勃起したペニスを持った死んだ赤子のような石像に運動する火の玉の光が照らしていく様はまさしく言語を超越した洞窟的な映画体験のようだった。トークでも「VRではフレームの縛りがなくなり、言語としてのシネマを排除した後に何が残るのかという実験です。」みたいな話してたし。アピチャッポンそのうちホラー映画とか撮らないかなぁ……

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 しかしはじめての生アピチャッポン、想像していたよりもはるかに知的で愛嬌のある人で素晴らしかったな。本人はもうアートとかやらなくていいかなとか言っていたけど、彼が一番作品作りを楽しんでいて、語る言葉の節々に金言がさり気なく散りばめられていてすごかった。

「リラックスしてください、私たちはいずれ消え去ります。だからこそ、楽しめる時に楽しみましょう。」

 今作が一番好きなアピチャッポン作品になるとは思っていなかったし、彼が一貫して描いていた夢や記憶を再体験する装置としての映画を、もっと作ってほしいと思ったし、過去作ももう一度見返すのが楽しみになってきた。現実も夢も映画もアートも技術もどんどん混ざり合う。

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 日本科学未来館、子供のころからの心の故郷ではあったのだけれど、やっぱり何度もここに帰ってきてあの明るくカーブした大階段を上ると心が落ち着くし、一言でいえばチルなんだよな……まさしく科学技術とアートとデザインが出会う場としての未来館、この明るく開放的な空気と光が大好き。

シアターコモンズ'24 アピチャッポン・ウィーラセタクン「太陽との対話(VR)」 | 日本科学未来館 (Miraikan)

トークセッション「『現実』とは何か?―アピチャッポン・ウィーラセタクン+藤井直敬の対話」(コモンズ・フォーラム#3) VR技術は「現実」と「異世界」をどう映すか | 日本科学未来館 (Miraikan)