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どこへ行く?今年ベストの一本『エグザイル/絆』

 2022年はパゾリーニジョニー・トーに出会った年だった。いやマジで、今年のベスト旧作は『王女メディア』と『エグザイル/絆』のどちらかになると思う。映画の神が宿っているとしか思えないし、一方で神様に叛逆するような作品でもある。観た順番のせいだけど、『エグザイル/絆』なんて黒沢清蛇の道』『蜘蛛の瞳』とパゾリーニの荒野を足したような映画にすら見える。

 最初のオープニングシークエンスからずっと最高で、何の説明もされない男たちがあるアパートの前の公園に集まってきて、何かしらの因縁や熱い関係性があるであろうことがメラメラと匂い立つあの異常な緊張感。西部劇とは男たちが銃を抜くまでの緊迫感や充実感、人間感情のエントロピーの増大が肝だと思っているが、それが開始10分で達成されてしまう。あとはもうこの男たちの「放逐」っぷり、彼らの内部や外側の世界とで繰り返される決闘にも似た生存のゲーム、観客はその緊張と緩和の波に漂うだけだ。はっきり言って死ぬほど面白い。生涯ベストの一本になると思う。

 ゴダールじゃないけど、「銃と車」に関する映画でもあり、男たちが車に乗る時は常に「行き場がない」時なのだ。目指すべき場所を定めることができないから彼らは車に乗って世界に漂うしかない。たとえ親友の一人が銃に撃たれて瀕死の重傷の時でさえ、彼らは車に乗った途端に「どこへ行く?」と交互に呟きあうしかない。この姿がまるで社会に出ることができていない腐りかけの大学生たちみたいで、何だか泣けてきてしまった。一方で、これは仁義と復讐のヤクザな世界でもあり、何故だか『サイバーパンク2077』のVとジャッキーのやりとりを思い出してしまったりもした。

 パゾリーニジョニー・トーに出会った時の喜びは、まさしく金鉱を発見したような、こんな映画があと何本も観れるのか……!という喜びだと思う。映画ってすごいなぁ。