純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

死に向かってズカズカ歩く『その男、凶暴につき』

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 ずっと観たかった作品で、ちょうど新文芸坐で上映されると言うことで観に行った。自分は北野武監督作品は中学生の頃に『アウトレイジ』を観たのが最初で、そこから遡っていったのだが(いまでも一番好きなのは『アウトレイジ ビヨンド』)、監督第一作はまだ観てなかった。いやー……これ北野武作品で一番怖い映画なんじゃないかと思う。

 暴力を抑え込んでいる男を撮るカメラや演出がどこかその男の過剰で陽性にすら見える言動に引きずられるかのように、いやもしかしたら映画もそれに加担してしまって、めちゃくちゃ怖いユーモアと暴力が炸裂する。もう冒頭のたけしが一人で歩いてるだけで異形というか、ビートたけしというものが日本にいるからこそ二重三重の異化効果が生まれているようにも思う。子供がよく出てくるのもかなり怖い。北野武フィルモグラフィーではどこか悲しい青春を描いた『キッズ・リターン』や『菊次郎の夏』も大好きなのだが、それを全く予感させない無邪気な存在と暴力が隣り合わせになっている日常が怖い。映画館で観たので中盤のカーチェイスとか爆笑してたけど、実際キレキレのギャグだけど、やっぱりたけしがずっと怖い。

 最後の「決着」なんて、あの闇の中にズカズカ歩いていくたけしの歩くスピードが怖すぎて、危なかっしくて、いやもちろん人が死んで殺し合っているからそんなもんじゃないんだけど、この映画を監督一作目で撮りあげてしまった北野武のスピードが恐ろしい……あのシーンは陰影の撮り方も、黒沢清みたいな伽藍としたコンクリートの柱だらけの空間も、そして男が死に向かって歩くスピードと鳴り止まない銃声と……ちょっとこれまで観た映画の中でも最も恐怖した場面だと思う。ヒィッって声あげちゃったもん。自分の声じゃなかったかもしれないが。