純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

ボーイミーツガールミーツ震災。『すずめの戸締まり』

いままでの新海作品で最も災害と真摯に向き合った作品だと思った。えらそうな事を言えば、作家としての成熟や覚悟を感じた。映画を観ていて途中まではすずめ「が」戸締まりしなきゃいけない話だけど、すずめ「の」戸締まりじゃなくない?と思ったら最後にすずめの扉をすずめ自身が締めて「いってきます!」を言えるようになるという完璧なラストシーンが待っていて、ラストにエモーショナルを叩きつける作風の中でもこれは唯一無二の強さを持った終わり方だなと思った。「いってきます!」と言えるようになることを最後に持ってくるの、やっぱりトラウマとどう生きていくかという映画なんだな。

一方でこれも新海誠らしいといっていいのかどうか、ダイジン結局なんなん?とか途中に出会う女の子が未成年なのに労働しすぎてめちゃくちゃこわいよ……とか家出高校生を夜の店に出すのはダメでしょ……とか教員志望!ってだけでほのかにいい人みたいな人物として描かれるのは意味不明(個人的にはここが一番ノイズ)とか、そういうモヤモヤは沢山あった。

ただ、子供向けというかむしろ高校生以下に向けて震災を描いたっていうことに一番意義があると思った。多分、もう小中学生は震災を知らない世代の方が多くて、それでもそこに伝えるために彼らの感覚に寄り添ってかつてあった震災をメタファーと同時にかなりリアルな描写とを混ぜて描いたことに感動したんだ……映画としてはそりゃ天気の子の方が好きだけど、こっちの方が感動したな。ボーイミーツガールで震災映画を撮る、という志はわりと『シン・ゴジラ』あたりに近いのかもとすら思ったり。

これは物語にはどうでもいいところなんだけど、ダイジンに関しては新海誠はこういう動物やファンタジー的存在を描く事に本当関心ないんだなと思った。椅子になった青年はあまりにもフェティシズムたっぷりに描くからあの辺は変なものを見せられてるなぁ……という気持ちになった。細田守とかなり対照的というか、異形と人間ばかり描く細田守に対して、新海誠はどこまでも人間と人間(少年と少女みたいな固定された枠からはあまり出ないのだけれど)の出会いを描きたい作家なんだな。