純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

このタイトルが大好き。『シャン・チー テン・リングスの伝説』

『ロキ』あたりからマーベルもういいかな……の気分になっていたのだが、もうこれで吹っ飛んだ。単独一作目では一番好き(あ、でもガーディアンズは)。『カンフー・ハッスル』丸出しなアクションも素晴らしいが、やっぱりバスの場面のパルクール功夫を組み合わせたアクションは何度でも観たい。そしてその場面からラストまでずっと「バディ物」たろうとするのが最高なんだよ。ワイスピを観たばかりだったのでオークワフィナ演じる相棒の能力のひとつが「ドライビングテクニック」なのも笑いましたが、それがここぞというタイミングで活躍する喜びがしっかり画面に焼き付いている。シリアスな場面や感動的な場面では正直トニー・レオンに敵うはずもないが、シム・リウとオークワフィナが二人で笑う場面は本当に輝いている。しかもこの映画、そんな最高なシーンで終わる。あのラストはDCで一番好きな『シャザム!』の最高のポストクレジットシーンを思い出した。エンドロールの後なんて(ジャッキーチェンよろしく)おふざけで楽しく終わるのでいいんだよ。

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自分では最高だったなあと思っていたが「MCUのリアリティラインが崩れたのではないか」という意見が多くて驚いた。たしかに不思議生物がいっぱいの村は唐突だったかもしれないけど、それをいうならワカンダですら結構怪しい存在だと思うし、最後の明らかに西洋的な「ドラゴン」と東洋的な「龍」の対決はやりすぎだろ!と笑えたし、むしろこんなに胸を張って自分たちの(あえて言うならばアジア人の)ルーツにある文化、つまりは「伝説」を映像化できるなんて素晴らしいじゃないか。後半のインフレ展開も『カンフーハッスル』から『バーフバリ』までのアジアのやりすぎファンタジー映画へのアンサーのようで大好き。最後のトドメとか、超巨大な「フェイタリティ」をドラゴンボール時空でやってくれた感じすらある。MCU屈指の頭の悪さが愛おしい。ラスボスがトニー・レオンからずれていく感じ、最後の巨大怪獣感は新スースクとの親近感もある気がする。むしろ主人公との「因縁」がない敵の方がヒーローとして素直に上がるところもある。

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そしてトニー・レオン熱を高めていった上での満足度も高かった。正直チート気味なテン・リングスの威力がトニー・レオンの静かな眼差しと対照的で、幼いシャン・チーを連れていく殴り込みのシーンなんて完全にノワールの空気だった。あとやっぱり何と言ってもミシェル・ヨー。すげぇ大事な主人公の師匠役で出てきたので嬉しかったな……『マスターZ』繋がりで次の悪役はマックス・チャンとか出してくれないかなぁ。トニー・レオン以外に見どころはたくさんあるが、どうしてもトニー・レオンに収束していってしまうのはトニー・レオンが良すぎたのだから仕方ない。でもだからこそ強大な父に立ち向かう健気なバディがひときわ輝くのだ。伝説としての父は去った。冒険はこれからだ。