純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

暖かな日差しの荒野を滑る『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』

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 昨日は青山真治の一周忌企画『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』を観てきました。劇場で観るのも二回目だしDVDも持ってるのに、こういうタイミングで観るとガラリと印象が変わった。パンデミックと音楽という突飛なSF設定や爆音の演奏シーンよりも、もっとやさしく誰かを悼むことについての映画だった。

 最初は追悼上映にエリエリが選ばれたのがピンと来てなかったんだけど、観ているうちにこの作品しかないと思った。青山真治作品はいつだって喪失者への眼差しがあるけれど、この作品は一際温かく、ユーモラスな死生観がある。最後の場面はあの『ビッグ・リボウスキ』の笑えて泣けるラストを思い出した。

 最初は突飛だと思った「レミング病」の設定だってとっても気が利いている。誰かが自殺することは起こり得ることだし、それを理解することはできないけれど、死者と一緒に生きていく方法はある。ここに筒井康隆をキャスティングした力強さも感じるし、『EUREKA』後の宮崎あおいが本当に素晴らしかった。

 釧路で撮ったという暖かな日差しの荒野をMTBとカートでゆるゆると滑っていく浅野忠信中原昌也が本当に死者の世界を行き来する旅人のようで、強烈に美しいラストカットをはじめ目を疑うような異世界がそこにあった。あたたかくやさしい死の世界。最後の浅野忠信の表情はどうしても泣いてしまう。