純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

観客の視線を唆す「手」。ロベール・ブレッソン『スリ』

f:id:is_jenga:20231220013522j:image

 『ラルジャン』に続いて『スリ』を観た。ロベール・ブレッソンが「手」を撮る映画作家だというのはよくわかった。「うかつだった」と言いながらも刑事に近づいていったりする主人公、ナレーションが自分の行為に常に被さってくる感じもかなりフィンチャーの『ザ・キラー』を思い出した。

 誰もいないはずの部屋に帰って来る時に緊張感が走る。冒頭に「これはスリに手を染めた青年の悪夢を映像と音で表現したものだ」という文章が置かれていたが、カメラで誰かの手元を映すことがそのまま観客に共犯的な視線を持たせる事になっており、スリリングであると共に非常に居心地が悪い。あと、主人公が生活する部屋の扉はいつも閉まらない。フワッと閉まったかのように見えて、そのまま静止する。主人公は浮遊する手つきで財布を手繰り寄せる事に悦びを抱いていたが、扉はそうした悦びを裏切り続け、絶えず闖入者を招き寄せる。しかしそれが最後の鉄格子の厳しい開閉の中であそこまで美しく物語を閉じる事になろうとは。

 ふと思いたって今年買ったBlu-rayたち。この年になって映画を物理メディアで買う価値がわかってきたかも。ポール・シュレイダーの『MISHIMA』は国内ソフトがないので買ったらなんか安心して半年くらい寝かせてしまった。あとやっぱりクィアな映画を手に入れたいみたいな欲望が垣間見えるセレクトだね。

f:id:is_jenga:20231220013845j:image
f:id:is_jenga:20231220013852j:image
f:id:is_jenga:20231220013848j:image
f:id:is_jenga:20231220013842j:image