純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

韓国映画の到達点。『HUNT』

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 この映画に全てがある。
 この映画のために自分は韓国映画を観てきたのだと思った。昨日の夜に『1987、ある闘いの真実』を観ていたのもとてもよかった。今年これを超える映画はないだろうと思う。

 イ・ジョンジェを知ったのは『イカゲーム』からであり、そこから『ただ悪より救いたまえ』や『新しき世界』を観て、その振り幅に驚愕したが(そしてそのどれもが完璧)、まさか監督としてもこんな凄まじい作品を撮りあげてしまうとは。銃撃戦の激しさや男達の色気は観る前からわかっていた。しかし、まさかここまで怒りと悲しみに溢れた映画だとは思ってなかった。何に対しての怒りと悲しみか。自分たち自身、痛みの歴史を背負い、自らを痛めつけ続けてきた韓国自身にである。冒頭から恐ろしいほどの熱量で、美しい男二人が煮えくりかえるはらわたを抱えて疾走し、周りのものを傷つけ、人が死んでいく。暴力であると共に、それは政治であり、憎悪によって作り上げられたシステムだ。これが男同士の激情によって彩られていながらも、極めて重厚なポリティカルアクションであり、感情が炸裂する象徴として過剰な銃撃戦がある。この激情が韓国の近代史に接続し、そこに説得力すら持たせているのがすごい。この映画の最も感動的なのは、誰もが抱えていた苦しみを、フィクションの主人公が断罪するのではなく、ただひたすら苦しみ続けるところだ。自分は昔から『裏切りのサーカス』や『ブリッジ・オブ・スパイ』や『工作』のようなスパイ工作映画が好きだが、それは踏み込んでしまったらシステムに殉じて死ぬことが定められているような冷酷な世界で、逆説的に生きようともがく人間が描かれるからだ。今回の作品も"もぐら"を探す話であり、それは精神的な越境、そして冒険譚でもある。話が飛躍してしまったが、主演二人を筆頭にあまりにも素晴らしいものを見せてもらった。パンフレットもカッコよくて嬉しかったけど、ファン・ジョンミンが載ってないのはなぜ……?文字通りの「ゲスト」だったから?『アシュラ』を観たばかりなので恐ろしくて仕方なかったが、彼が登場するところが作中唯一の笑える場面だったかもしれない。

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