純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

太宰治の「右大臣実朝」を読んで、実朝の墓参りをしました。

 


 結局鎌倉旅行には全然間に合わなかったけど、太宰治の「右大臣実朝」を読みました。いやー面白いです。最初はなんで太宰が実朝を?という気持ちだったのだけれど、読んでるうちに太宰治特有の「卑近な貴族語り」というか、野暮と高貴を行き来する弱々しい精神のようなものがピッタリだと思った。

 そして日本史においても超有名な暗殺事件なので、そこに至るまでの「予感」のスリリングさがずっと持続している。でも太宰にやられた!と思ったのは最終部分で突然(暗殺犯である)公暁と語り手の対話が描かれるところ。夜の由比ヶ浜で、あの実朝の巨大な船の横で焚き火をするというやり過ぎな舞台設定。そしてそこで交わされる会話が「スパイ映画か?」と思うくらい気が利いている。

「あの唐船の下に、不思議と蟹が集まるのだ」
「とらない人には、食べさせないよ」

 これが犯人の台詞だと思うと、もうね……この「蟹」にはすぐ平家物語を思い出してしまうし、そこには実朝の「平家ハ、アカルイ。」という不穏な言葉も重なってくる。いやーなんか、めちゃくちゃエンターテイメントな作品だったな……あと、『鎌倉殿の13人』が再現されるのは当然としても、最近読んだ『日出処の天子』にここまで言及してくるとは思わなかったよ……実朝、厩戸の皇子の解釈一致です……

f:id:is_jenga:20231017002620j:image鶴岡八幡宮の、公暁が隠れていたという大銀杏。2010年に倒れてしまった。

f:id:is_jenga:20231017002406j:image鶴岡八幡宮のすぐそばの、寿福寺にある源実朝の墓。隣には北条政子の墓があった。