純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

失敗とお仕事。『ザ・キラー』

f:id:is_jenga:20231118142049j:image 感無量……映画監督で一番好きなフィンチャーのこんなキレッキレの殺し屋映画が観れるなんて。ジョン・ウィックイコライザーと重なるところもありながら「仕事への諦観」と「人生への執着」にやられた。ドライと情熱の狭間でターゲットに接近していくファスベンダーの演技も最高。

 今年はスピルバーグからスコセッシからリドリー・スコットまで大監督の新作がバンバン公開される異常事態なわけですが、やっぱりそのどれも(ナポレオンはまだだけど)がものすごく老練な完成度というか、映画人生をかけて作っているような覚悟を感じるものだったので、フィンチャーも前作『マンク』で父の脚本を映画化して映画監督としての自分に言及するような作品を撮ったな……と思っていたらこれですよ。若い!めちゃくちゃクール!超カッコいい。思えばフィンチャーはCMやMVなどの映像クリエイターとしての出自を持っていたわけで、いやーこっちだった!勝手に巨匠に分類しててごめん!もちろん巨匠だと思うけどサクッと軽やかな殺し屋映画を撮ってしまってもう平伏です。

 めちゃくちゃカッコいいMVみたいなオープニング映像から全編にわたるモノローグ、これもどこか短編小説を読んでいるような味わいながら、キメキメなカッコ良すぎる映像なのに笑いどころも多く、超クールな殺し屋かと思いきやザ・スミスを聴きながら狙撃をして失敗し、さてどうしようという話。面白いのはクールな質感にかなりとぼけたお仕事失敗話を重ねつつ、これがだんだんと「仕事を失敗した後にどうするか」ということを地道に丁寧に考える映画になっていて、フィクションで描かれる「クールな殺し屋」の向こう側……にある地に足ついたプロフェッショナル映画になっていく。この感じはここ最近の殺し屋映画にはなかなかない。失敗してどうしようか?というのはジョン・ウィックの最新作にはあったかもしれないが、かなりリアリティのバランスが丁寧なまま殺し屋として仕事を修正する(=殺して片付けるのとは正反対の調査や裏付けを行なっていく)作業を奮闘する様が描かれるのが新鮮。いやーめちゃくちゃ面白いっす。

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 あとね、飛び道具のようなティルダ・スウィントン!最高です!あそこでもうなんか完全に殺し屋としては負けちゃってる気もするけど生きるためには仕方ないというのを二人が会話をしながら了解していく(最後には同じ方法に到達する)時間が何だかすっごく心地よくて……どこかあの時間は打ち解けた空気で「わかってくれるか……」みたいな仕事の愚痴を話し合ってる感じもして、素晴らしかったな。

 最初は久々に見るフィンチャー映画に当てられていて、うわーカッコいい、たまらん、まぶしい!って感じだったけど、今作ほど批評家の話が面白い映画もないなと思った。北村紗衣さんの「スミスなんて聴いってから失敗するんだよ!」とかギレルモ・デル・トロの「フィルムとムービーが同居した美しい映画」という評もたまらない(どっちも本人のTwitterにて)。少し映画としてカッコ良すぎるのが玉に瑕だが、そこはファスベンダーのパーフェクトお茶目演技で許そう。リドリー・スコットの『プロメテウス』とか『悪の法則』とか、ファスベンダーは「一見クールだけど中身はわりとアレ」みたいなキャラがハマるよなぁ。

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