純粋なのは不死ばかり

文を隠すなら森。

旅をしたら世界が散らかる。多和田葉子『地球にちりばめられて』

 多和田葉子「地球にちりばめられて」、やっと読み終わった。大好きすぎる!!!多和田葉子は裏切らない。

 ドイツやデンマークや南フランスを旅してHirukoがSusanooに出会う話のようではあるが、それが「ハッピーエンド」と呼ばれるような定められた「故郷を失って再開した同郷人」にも「遠く離れていた兄弟」にももちろん「二人の恋人」にもならないのが素晴らしい。最後にみんなが大きなテーブルに次々と座って、色々な関係性がこんがらがっていくクィアな空間が本当に楽しかった。エンドではなく、開かれているものとして、自分が読んできた多和田葉子作品で一番ハッピーな気がする。

「クヌート、君は女性を必要としていない。そのかわり君といっしょに歩くたくさんの友達を必要としている。君は結婚しないだろう。子どももつくらないだろう。君はセックスを必要としない未来の人間だ。」

 失われた日本から長い旅をしてきたHirukoとSusanooが、一人は新しい言語を自作して話はじめ、一人は言葉を失ってしまう……と思いきや!最後の透明な、聞こえないスピーチの場面の美しさはどうだ。未来にしか響いていない言葉を、たしかに僕ら読者に投げかけられている。……石川淳の紫苑物語の消える矢(すなわち歌)も、つまりはこういうことなんじゃないか。

 「地球にちりばめられて」は多和田葉子の三部作の一作目だとは聞いていたが、もしかしてこの物語はまた続いていくのか?だとしたらあまりにも嬉しすぎるよ!!!

「これは旅。だから続ける」

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